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愛知県労働協会主催のセミナー「労働条件の不利益変更と実務対応」を受講しました。
2023/06/12
愛知県知多地域、西三河碧海地域、名古屋市南部地域を営業区域としています、特定社会保険労務士の岡戸久敏と申します。
令和5年6月7日(水)、愛知県労働協会が主催するセミナー「労働条件の不利益変更と実務対応」をZoomで受講しました。
講師は、杜若経営法律事務所所属の 友永隆太 弁護士でした。
さて、労働条件を変更しようとする際に、問題・紛争になりやすいのは、「賃金」と「出退勤管理」に関することです。
ところで、労働条件の不利益変更の方法には、①就業規則の不利益変更、②労働者との個別同意、③労働協約の締結という3つの方法があります。
不利益な変更であるか否かは、裁判所では、全体ではなく個々の労働条件ごとに形式的、きわめて機械的に審査し、次に、その変更が合理的であるかを検討します。
まず、就業規則による不利益変更は原則無効ですが、例外として、「変更の合理性」と「周知」があれば不利益変更は可能とされています。では、変更の合理性とは、A「変更により生じる不利益の程度」と、B「変更の必要性の有無・程度、変更の後の内容の相当性」とのせめぎあい(バランス)のなかで、Bがよりまさるのが合理的であるということです。
次に、労働者との個別同意ですが、労働者との個別同意がとれれば、その労働者との関係においては、就業規則を不利益に変更することが可能となります。
ただ、個別同意の有効性は慎重でなければなりません。経営者に対して、厳しく認定される傾向にあります。労働者の「自由な意思」に基づいて同意がされたどうかを、裁判所は重視します。
次に、労働協約の締結ですが、その会社の労働組合が経営側に友好的であり、かつ、組織率が非常に高ければ、有効な手法です。現在、日本の労働組合の組織率は低いので、実務的にはあまり使えません。
さて、労働条件のうち、「賃金」に関する不利益変更ですが、「賃金」は労働条件の中核となる重大な事項ですので、その変更には“高度の必要性”が求められます。
「賃金」に関する不利益変更の“高度の必要性”を判断するためのチェックポイントは、次のとおりです。
□ 影響を最も大きく影響を受ける従業員の減額幅は、何%であるか。
(裁判所は、5%を超えると大きな不利益変更と認定する傾向にある。)
□ 変更により、賃金原資が減額していないか。
□ 変更を必要とする、経営上の具体的な事情(赤字経営、経営統合など)があるか。
必要性の立証は、特に重要である。
□ 個別同意に向けた会社側の努力はあるか。それはどの程度か。
□ 不利益を緩和する代替措置(調整給など)は講じられているか。
□ 評価制度は、恣意性が介在せず、客観性が担保された制度となっているか。
(評価研修を受けた者による評価、複数人による評価、面談の機会、
フィードバックの実施など)
□ 変更にあたって、丁寧に説明会を実施しているか。
□ 変更にあたって、個別質問に対応できる体制(相談窓口の設置など)がとられているか。
□ 労働組合との協議は行ったか。(補助的な要素)
次に、労働条件のうち、「出退勤管理」に関する不利益変更ですが、「出退勤管理」は従前のルーズな取扱い、恩恵的な取扱いを改めるという観点では、合理性は肯定されやすいといえます。比較的緩やかに、変更が認められる傾向にあります。
「出退勤管理」に関する不利益変更のチェックポイントは、次のとおりです。
□ もともとの取扱いが、単なる恩恵的なもの(ルーズな時間管理により副産物的に生じたもの)
に過ぎないのか。
あるいは、労働組合との交渉の結果によって、獲得された権利であるのか。
□ 賃金からの控除の対象となり得る頻度はどれくらいか。また、その額はどの程度か。
□ 当該取扱いを廃止することが、本来の労務管理に適うものといえるか。
□ 説明の状況、反対する従業員の数はどうか。(補助的な要素)
ところで、就業規則の不利益変更を検討するにあたっては、事前の準備が非常に大切です。事前の準備により、紛争が起きるリスクは低くなりますし、紛争後にあわてて取り繕っても、後付けではぼろが出るだけです。
□ 変更によって影響を受ける従業員の割合を把握する。
□ 変更によって減額となる金額、及び総支給額における割合はどの程度か。
□ 必要性を裏付ける具体的事情はあるか。また、その客観的な資料を収集する。
□ 不利益変更が一定程度以上の場合、代替措置(不利益部分の補填、経過期間の設定など)は
どのようにするのか。
□ 変更を争う者は、どの程度の人数・割合で出てきそうか。
(アンケート(記名が多いが、無記名でもよい。)を取るなどして、把握していく。
戦略的には重要。)
□ 個別同意の取得を念頭に置いた説明会の実施計画や、その方法はどのようか。
(説明会では、新旧対照表や経営状況などの資料を用意する。)
□ 個別質問を受ける方法はどのようか。
□ 労働組合へ申し入れをするタイミングはいつか。
昨今の物価高、労働力不足など中小企業を取り巻く経営環境は、ますます厳しさを増しています。経営者の皆様は会社を守り、従業員を守るため、労働条件の不利益変更をせざるを得ないこともあろうかと推察します。
お客様から相談があった際には、今回のセミナーでの学びも活かして、よりよい提案ができたらと考えています。
最後に、いつも思うことですが、質の高い話をお聴きし、納得感が得られますと、心が洗われ、とてもうれしい気持ちになります。よいセミナーでした。ありがとうございます。
よろしければ、私のホームページ(愛知県知多・碧海・名古屋市南部の社会保険労務士 – おかど社会保険労務士事務所 (sr-hokado.jp) )もご覧ください。
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