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固定残業代の課題と対応策は何?

2023/06/08

 愛知県知多地域、西三河碧海地域、名古屋市南部地域を営業区域としています、社会保険労務士の岡戸久敏と申します。

 令和5年6月7日(水)、杜若経営法律事務所が主催するセミナー「裁判実務を活かした運送業の賃金制度見直しセミナー 〜「基本給・割増賃金振分け方式」3/10最高裁判決を中心にみる賃金制度の落とし穴」~」を、Zoomで受講しました。

 講師は、杜若経営法律事務所所属の 樋口陽亮 弁護士でした。

 割増賃金を「固定残業代」で支払っている中小企業は、多いと思います。

 特に、運送業では、独特の賃金体系を採用している会社が多いとのことです。

 もし、裁判所で採用している固定残業代が否定されてしまった時は、次の2つのリスクがあり、場合によっては経営が成り立たなくなってしまいます。

 1つは、基本給と固定残業代相当の手当をあわせて、割増賃金(時間外勤務手当等)の算定基礎賃金であると、裁判所に判断されてしまうリスクです。つまり、計算単価が上がってしまうということです。

 もう1つは、民法の改正により消滅時効が、2年から3年になったということです。消滅時効の変更だけ見ても、紛争が起きてしまうと、支払金額がこれまでより1.5倍に増えてしまうというリスクです。

 では、固定残業代はどういった時に、裁判所に有効と判断してもらえるのか。

 これには、次の2つの要件があります。

 1つは、固定残業代相当の手当が、時間外労働の対価としてのみの性質を有しているかです。(対価性の要件)

 もう1つは、基本給や他の手当と、固定残業代相当の手当が明確に区分されているかです。境目があいまいではないということです。(明確区分性の要件)

 また、対価性は、賃金制度全体をみて、客観的に納得できるものでなければなりません。

 次に、運送業で問題となりやすい事柄は、次の5つがあります。

 1つ目は、就業規則や雇用契約書に、固定残業代が支払われることや、その金額、時間数が明記されていない。就業規則に書かれていないと、経営者の側は自らの正当性を主張できなくなってしまいます。(雇用契約書・就業規則文言不備タイプ)

 2つ目は、賃金総額をあらかじめ決めて、労働時間の実態にあわせて基本給部分と割増賃金部分を振り分ける。つまり、賃金総額が変わらないように基本給を決めて、割増賃金(時間外勤務手当)を算出し、賃金総額から基本給と割増賃金を差し引いた部分を調整手当としてつじつまをあわせます。結果、賃金総額は変わりません。(基本給・割増賃金振分タイプ)

 私の個人的な見解ですが、残業しても賃金が変わらないのは、いいのかなと思います。

 これについて、最高裁判所が判断したのが、令和5年3月10日の熊本総合運輸事件の判決です。

 3つ目は、今多いのは、賃金総額を出来高(例えば、その人の売上高の20%を賃金総額とする。)によって算出し、それを機械的に基本給、調整手当と割増賃金に振り分けます。(歩合給算出タイプ)

 これも、私の個人的な見解ですが、残業代を計算しないのは、どうなのかなと思います。また、残業していなくても、割増賃金が支払われるという矛盾が生じます。

 4つ目は、固定残業代相当部分の金額をとても大きくし(例えば、80時間相当額)、一方、基本給は時間単価にすると最低賃金すれすれにするというものです。(長時間労働相当タイプ)

 これも、私の個人的な見解ですが、なんかしっくりしないなという感じです。ベテランのドライバーが最低賃金すれずれの評価しかされないのと、思ってしまいます。それに、過労死の危険があるとされる80時間もの残業を続けさせるという前提ですか、という疑問も湧きます。講師から45時間程度までが限界との話があり、納得できる(労基法の時間外勤務命令で45時間が出てきます。)と私も思いました。

 5つ目は、少し違う論点ですが、旅費交通費を定額支給していると賃金の一部とされる可能性があるというものです。旅費交通費は実費弁済として、支給しなければなりません。(旅費交通費定額タイプ)

 運送業における賃金制度の解決策としては、「歩合給」中心の制度に移行するというのが現実的です。

 割増賃金(時間外勤務手当等)の算定基礎賃金を算出するのに、例えば、「月給」であれば1か月の所定労働時間で割りますが、「歩合給」であれば時間外分を含めた総労働時間で割ります。この結果、歩合給で計算した方が、分母が大きいため算定基礎賃金がより低くなります。

 また、時間外勤務手当を算出するのに、「月給」では算定基礎賃金に1.25を掛けますが、「歩合給」では0.25をかければよいです。「歩合給」の方が掛ける数字が小さいため、時間外勤務手当は少額となります。

 マジックのように見えてしまいますが、この歩合給の計算方法は、労働基準法で規定されている正当な計算方法です。

 ただ、歩合給制度への移行は、労働条件の不利益変更にあたる可能性があります。

 個々の労働者によって、賃金が上がる人もいれば、下がる人もいるという場合は、不利益変更であると最高裁判所は判断しています。

 そうであるならば、労働者一人ひとりの個別同意を取っていくことになります。丁寧に説明して理解してもらう必要があります。また、激変緩和措置をとって、急激な賃金の減少が起きないように配慮することも大切です。

 最後に、運送業における労働時間管理のポイントとして、タコグラフの有効な活用があげられます。タコグラフに不自然と思われる自動車の運行停止時間があれば、すぐに労働者にヒアリングして、その内容をメモで残しておきます。もし、紛争が起きてしまっても、記録があれば、その時間は労働時間ではないと反論できます。

 

 これまで仕事をしてきて、素直にすっと頭に入ってきて、納得感が得られるものが正しい判断だと考えていました。今回も、やはりそうかと思いました。逆に、いろいろとこねくり回して、一見正しそうだけれども、しっくりこないなというものは、無理が生じているのだなということです。

よろしければ、私のホームページ(愛知県知多・碧海・名古屋市南部の社会保険労務士 – おかど社会保険労務士事務所 (sr-hokado.jp) )もご覧ください。

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